もちがせ流しびな|紙雛を千代川に流す行事【鳥取】
鳥取県鳥取市用瀬町。千代川に沿って開けた山あいの小さな町で、毎年旧暦3月3日に行われるのが「もちがせ流しびな」です。晴れ着姿の子どもたちが、男女一対の紙雛をのせた桟俵を川面にそっと置き、無病息災と健やかな成長を願います。江戸時代から途切れることなく受け継がれてきた行事で、1985年に鳥取県の無形民俗文化財に指定され、2021年には国の記録作成等の措置を講ずべき無形の民俗文化財にも選ばれました。春の水面を流れていく雛の列は、日本の節句の原型を今に伝えています。
千代川に浮かぶ紙雛の列
会場は流しびなの館の周辺、集落を流れる千代川の緩やかな瀬です。かつては夕方に各家庭がそれぞれ川へ出て流していましたが、現在は決められた午後の時間帯に町ぐるみで行われます。着飾った子どもたちが桟俵を両手で抱え、川岸にしゃがんで水面に置く。手を離すと桟俵はゆっくりと回りながら流れに乗り、桃の花や菱餅を揺らしながら下流へ遠ざかっていきます。春先の千代川はまだ水が冷たく、川面を渡る風にも冬の名残がありますが、岸辺には桃の香りと見物客の声が広がります。ひとつ、またひとつと流れ出した雛がやがて列をなし、瀬のきらめきに紛れて見えなくなるまで、多くの人が黙って見送り続けます。
粘土の頭に胡粉を塗った小さな紙雛
流しびなに使われる紙雛は、店で売られている雛人形とはまったく違う手作りのものです。丸めた粘土に胡粉を塗り、髪と顔を描いて頭を作り、赤い梅鉢紋様の紙衣を着せます。男雛には金色の袴、女雛には金色の帯が付けられます。この一対を、米俵の蓋に使われていた藁製の円い皿「桟俵」にのせ、桃の花や季節の花、菱餅やおいりなどの菓子を添えて送り出します。桟俵は当初からすべての家庭で使われていたわけではなく、菓子箱や生活用品の空き箱で代用した例も多く残っており、1960年代以降に全国的な注目が集まるなかで現在の形が広まったと記録されています。
上巳の節句と「ひな荒らし」
流しびなの源流は、平安時代の上巳の節句に行われた人形流しにあります。人形に自分の穢れや災いを託して水に流す禊の風習が、江戸時代にひな祭りと結び付いて今の形になりました。用瀬ではこの伝統が絶えることなく続き、保存にあたるのは用瀬民俗保存会です。願い事は無病息災や子どもの健やかな成長が基本ですが、近年は将来の夢の成就や受験の成功など、内容も多様になっています。かつては節句に近所の子どもや親類を招き、雛壇の供え物を食べる「ひな荒らし」という風習があり、昭和30年代ごろまで行われていました。子どもたちはひな荒らしのあと、夕方になってから川へ雛を流しに向かったといいます。
楽しみ方のコツ
旧暦3月3日は年によって3月下旬から4月中旬まで動くため、まず開催日を確かめてから予定を組んでください。川岸は足元が不安定で、当日は狭い河原に多くの人が集まります。小さな子ども連れなら、水際に近づきすぎない場所から見るほうが安心です。当日は町内の個人宅でも雛人形が公開され、流しびなの館ではお雛様にまつわるエッセイの朗読会が開かれます。行事の時間だけを目当てにせず、町を歩きながら家々の雛飾りを見て回るのが、この日ならではの過ごし方です。山あいの町なので日が陰ると急に冷え込みます。上着を一枚多めに持っていきましょう。同じ因美線沿いの智頭宿と合わせて訪ねる人もいます。
アクセス
会場の流しびなの館周辺へは、JR因美線の用瀬駅から徒歩約5分です。鳥取駅からは因美線で南へ向かいます。駐車場は用意されていますが、当日は町内に見物客が集中するため、早めに到着しておくと安心です。行事は川沿いで行われるので、駅から会場までは案内に従って歩けば迷うことはありません。
祭りの実用情報
- 開催時期:毎年旧暦3月3日(新暦では3月下旬から4月中旬にあたります)
- 会場:流しびなの館周辺の千代川河畔(鳥取県鳥取市用瀬町別府)
- 主催・問い合わせ:もちがせ流しびなの館 電話 0858-87-3222
- アクセス:JR因美線 用瀬駅から徒歩約5分
- 駐車場:あり
- 文化財:1985年 鳥取県無形民俗文化財に指定、2021年 国の記録作成等の措置を講ずべき無形の民俗文化財に選択(保護団体:用瀬民俗保存会)
- 公式サイト:https://www.city.tottori.lg.jp/site/nagashibina/
※日程・内容・料金は変更される場合があります。おでかけ前に公式サイトで最新情報をご確認ください。
(出典:鳥取市公式ウェブサイト、鳥取市観光サイト、文化庁 文化遺産オンライン)
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